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石原慎太郎さんから弟・裕次郎さんへの愛を感じた30分の散歩 「また今度」はもう二度と来ない - スポーツ報知

 圧倒的な威圧感を感じたことは今もはっきりと覚えている。石原慎太郎さんと一緒に散歩した思い出は、今後も忘れることはないだろう。

 大学生だった2015年の夏の暑い日。就職活動も終盤に入り、気分転換に知人から勧められた石原慎太郎氏の著作「弟」(1996年発売)を読んだ。私が生まれる前に既に亡くなっていた石原裕次郎さんについて記したミリオンセラーだ。私にも年子の弟がおり、読めば読むほど、共感する部分が多かった。読み終えたとき、とっさに石原慎太郎さんに会いたくなった。

 とある縁で自宅を知ることができ、昼下がりに訪ねると、家人に追い返された。どうしても会いたかった私は、そこで待ち続けた。夕刻、本人と会うことができた。

 「誰だ、君は!」

 第一声を聞いたときの“怖さ”ははっきりと覚えている。丁寧に自己紹介をすると、脳梗塞のリハビリも兼ねて、一緒に散歩に行こうと言ってくれた。

 歩いている途中、「弟」の感想を話すと、慎太郎さんは「ずいぶんと昔の本を読んでくれたんだな」と少し照れくさそうに弟・裕次郎さんのことを話してくれた。私自身も裕次郎さんと同じで慶應義塾の一貫校から内部進学で大学に進んだ。「やっぱり慶應って他の学校とは違うよな。裕次郎も好きなままに生きていたし、それがうらやましいと思ったことあった」と初対面の私に本音を明かしてくれた。

 衆議院議員在職25周年を期に、国会議員を突然辞職し、書き上げた「弟」。散歩をしながら、「唯一の兄弟だったからな」と慎太郎さんがつぶやいた。昭和の大スターへ駆け上がった弟を誇りに思っていた。都知事時代の歯に衣着せぬ発言で注目を集めていた強面政治家のイメージだった私は、弟を見守り、弟を愛した、優しい慎太郎さんを垣間見た気がする。

 約30分の散歩後、「卒業したら何になるんだ」と尋ねられた。「新聞記者になりたいです」と答えると、「朝日新聞だけには行くな。俺が嫌いだからな」と笑われた。帰りがけに本を取り出し、サインをお願いした。慎太郎さんは「ちょっと脳梗塞でまだ手が不自由なんだ。また今度書いてやるから、今日は申し訳ない。俺はまだまだくたばらんぞ。今日はありがとう」と断られた。

 またいつか―。ずっと手元に置いてある本にサインを書いてもらえないのは何ともさみしい。それでも一緒に歩いたかけがえのない時間は色褪せることはない。ご冥福をお祈りします。

(松浦 拓馬)

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